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かつて、「鴉」と「雲雀」の主であった男。
単なるいち王佐にすぎなかった男は一国の王となった。

守るべき王を失い、守るべき民の多くを失い、右腕を失い、両目の視力を失い、左耳を失った。それでも男は戦い、国を戦の混沌から救った。
とはいえ救ったとは名ばかりの傲慢な言葉で、その実は、怒りと悲しみに我を忘れた男の暴走が運よく国を勝利へ導いたに過ぎない。

これ以上何も失うものなどないと過信をしていた男は、感情のままに多くを踏みにじり握り潰し、そうして殺してきた。罪悪ひとつ感じることなく、この殺戮行為こそがやがて国を守ることになるのだと妄信していた。

鴉と雲雀の…主に鴉の静止に一切耳を貸すことはなかった。
鴉と雲雀は男の使役する獣であり、どんなことがあろうとも男から離れていくことはないと愚かな過信をしていた。
男は傲慢にも鴉と雲雀の忠誠心や敬愛の心を、絶対の服従心だと勘違いしていた。男が解放してやらない限り、二人を失うことなどありえないと思い込んでいた。

けれど今、男の傍らにはそのどちらもいない。
再三に亘る鴉の静止と雲雀の忠告を黙殺した。
鴉を失ってようやく我に返ったが時既に遅し、雲雀もまた男の下を飛び立った。
生まれてこの方ずっと共にあった鴉が、自発的に男のもとを去るなど思ってもいなかった。常に物静かであった雲雀が男を責めるなど、はじめてのことだった。それほどまでに二人を追い詰めたのは男以外の誰でもない。
後悔など、なんの意味もない。

男は王の部屋の窓から、青い空を見仰ぐ。
四十一年前、まだ王佐として国に仕えていた頃の男とは似ても似つかない容貌。随分とやつれ顔色もよくない。それでも男は毅然としていた。

鴉と雲雀が己のもとを去り、今度こそ全てを失ったかと思った。
けれど男はまだこの国に必要とされた。
だから男は生きている。今度こそ道を見失わないよう、国の為に誠心誠意生きると決めたから。そうして王となり二十年、男は賢王と謳われ、国も安泰した。妻を娶り子を成し、その三人の子らもまた猛き賢き王子だと言われている。
長男は学問優秀で、国立の大学校で術学を学ぶ道を選んだ。
三男は自由奔放で、今はどこで何をしているのやら、常に国を空けて各国を見聞して回っている。

次男は明日に戴冠式を控え、落ち着きがない。
文武共にそれなりにこなす子だ。愛想のよさでは三兄弟いちで、普段は多少気弱な面があるが、いざというときの決断力には目を見張るものがある。

男は最近よく昔のことを思い出すようになった。
悪い思い出ばかりではない、楽しかった思い出も、ちゃんと思い起こせるようになった。そうして夢に見る。
愛する王がいて、民たちがいて、鴉がいて、雲雀がいて…男がいる。憂うことなど何もない、幸せな日々。

「全てが終わったら。ひと目でいい、お前たちに会えるだろうか。今一度、お前たちに謝りたい…そして感謝の気持ちを伝えたい。」
王の部屋。男は窓際に腰掛け、真っ青な空を見仰ぐ。
涼やかな風が男の頬を撫で、部屋の中に舞い込んだ。

―…明日、貴方を迎えにゆきます。

不意に頭に直接声が響いてきたのはその時だ。
誰の声か…そんなこと、分かりきっていた。けれど信じがたいことだった。雲雀の声が聞こえるなど、あり得ない。雲雀は男を怨んでいるはずで、もうとうの昔に去っていった者だから。
男は立ち上がり、周囲を見回す。

「雲雀…雲雀…!すまなかった…私は間違っていたんだ。君に謝りたいと、ずっと思っていた。どれほどのことをしても君には償うことはできないが…鴉にも…取り返しのつかないことをしてしまったが…それでも、私は君に謝りたいと…っ!」
―…主、貴方は全ての罪を償いました。
「違う!そんはことはない!私の罪は、決して拭われない。」
―…主、北の御方は生きておられます。貴方に再び会いまみえる為、帰ってきたのです。けれど主は、己の罪を悔いて、今度こそ国を守るため、頑張っておられた。だからこうして、主が全てを終えるのをずっと…二人で待っていたのです。
「私を…私を許すというのか…?あれほど君たちを苦しめたのに!」
―…そんなこと…。ワタシたちは元々、貴方を怨んだりはしていないのですよ。苦しんだのは、主を愛していたからです。ワタシたちは主とまた、三人揃って幸せになるため、ずっと、主を待っていたのです。

―…主。
「鴉…!」
―…よく、頑張られたな。ワタシは主を、誇りに思う。

『ワタシたちは永久に貴方と共に。』

翌日、戴冠式を程なく終えた元一国の王は、忽然と姿を消した。誰もその行方を知る者はいない。
ハッピー…エンド(o△o;)?
いやいや、うん、ハッピーエンドだようんそうだよそうに違いない。

全三話の短編っぽいもの。
前二話が重いだけに最後くらい幸せにしてやりたかったわけで。

三人はどこか遠いところで幸せに暮らしているんです。国は新たな王が守っていくことでしょう。

そう信じてる。
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