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「おいっ、テメー!!待ちやがれ!ただじゃすまさねぇぞ、コルァー!!俺が成敗してくれるっ!名を名乗れ!!」

どたどたどた。ばたばたばた。
静かな回廊に、怒り狂った叫び声と愉しげな笑い声が響き渡る。青く澄みきった硝子の回廊を抜けて、白色に煌めく硝子の階段を駆け上がるのは二人の男女だ。

先を行く女は優雅そのものといった駆け足で光のように回廊を突き進む。その表情から見るに、とても愉しそうだ。
それを追う男は箒を片手にこれまた流れ落ちる滝のように回廊を爆走する。その表情は、誰が見ても明らかに怒り心頭といった様子。

女は不意に立ち止まった。
つられるようにして、男も止まる。だから距離は縮まらない。

「しつこい庭師だな。あたしの名か?神という。…まぁ本当のところ、あたしには名がないのだがな。ヒトがあたしを神様と呼んだから、あたしは神と名乗るのだ。」

扇をはためかせ、赤髪の女は笑った。ころころと、至極愉しげに。それでいて、冷酷に。何故か、優しさを内包させて。
対面する男は黙ったまま目を伏せた。口を一の字に引き結んで。
そうすると、また女は笑う。長い深紅の髪を指先で弄びながら。
…まぁ、実際しているのは他愛も無い世話話も同じはず。真剣に議論することは何一つない。だから女はことんと首を傾げて美しく微笑んだ。

「して、あたしに何の用だ?」
男は手にした箒を握りしめ、ぐいと顔を上げた。階段の最上段に優雅に立ち、男を見下ろしてくる女をねめつける。女はそれを、少し面白そうに見た。
「僭越ながら神サマに一言…。」
…こほん。男の、小さな咳払いをひとつ。

「……っ人が折角、三日三晩かけて掃き清めた庭を散らかした上、更にはその罪を俺に着せるたぁ、神サマとしてやっちゃいけないことなんじゃねぇのかぁぁ!!」

男の絶叫が、回廊に響き渡った。
落ちる沈黙。大きく肩を上下させる男。

女は…いや、「神サマ」は次の瞬間その美しい唇を歪めた。

「………っく、あはは、ははははっ!!はっはっはっ!これは愉快だ!なんだ、お前はそのようなことの為だけに、あたしを凄まじい形相で追いかけてきたのかっ?」
「笑いどころじゃない!!いいか、神サマっ!お前は、俺の苦労を水の泡にしたんだ!いくら神サマとはいえ、断じて許すまじ!!使用人を甘く見るなよっ!!」
「あはははっ!…いや、甘く見てなどおらん。あたしはこの城の主であるというのに、皆してあたしに食って掛かってくる。面白いとは思わんか?主形無しだっ!主を主として扱わない、神を神として扱わない者たちと遊ぶのは、それはそれは愉快なことだと思わんか?」

壁に寄りかかり、ばしばしと叩いて爆笑する自称「神サマ」。
…庭師である父親の紹介もあって、男が城で働き始めたのはつい最近のこと。故に、これまで自分が仕えている城の主に面識はなかった。しかし、まだまだ半人前の使用人である男は主を目の前にして、思いきり眉をしかめた。

神サマは、およそ神サマらしくない素振りで腹を抱えて笑っている。…主の破天荒ぶりは噂には聞いていたが、それは男の予想を遥かに上回っていた。
男はぎりりと歯噛みして箒を力一杯握った。
「お前は、使用人をからかって楽しいのか!?」
「うむ、愉しいぞ。非常に愉快だ。」
きぱっ。素晴らしい反応速度で、更には真面目な顔で返された。

「……―っ!!」
「して、お前は新入りか?見ない顔だな。庭師か?」
せめて一撃食らわせてやりたいと一歩を踏み出した男は、そこで足を止めた。ぐっと踏みとどまり、一度大きく深呼吸をする。
「…はい、新入りデスが、なんデスカ!?それがどうかシマシタカ!?」
「名は?」
「貴方のような高貴なお方に名乗るほどのモンじゃねぇデスよ!一介の庭師の一大事なんざ、どうでも宜しいんデショウ!?」

精一杯の敬語…とはお世辞にも言えない。
正規の言葉遣いも忘れて男は怒鳴った。
…そう、これは遥かに広大な城の庭を、どれだけ短い期間で美しくすることができるかのテストだったのに…。全てが無駄になってしまった。普通二人の庭師で一週間かかる庭掃除を、男は一人でただの三日…いや、正確には四日目の朝で終わらせた。これは物凄い記録だ。しかし、男が先輩の庭師たちに報告にいこうとした刹那、疾風が全てを駄目にした。

目の前の「神サマ」に。

神サマに笑顔を引っ込める気配はない。男はそれを見て、それからしばし停止して、それから不意に肩を落とした。この人には何を言っても無駄だと悟ったのか。唐突に感情一切を打ち消した。
神サマは笑いながら、階段を降りてくる。優雅に微笑んで、緩やかな足運びで降りてくる。
扇をぱちんと閉じて、男のすぐ前に立った。

「まぁまぁ、そう怒るな庭師。きちんとあたしから言ってやるから。」
「……そういう問題じゃない。結果が伴わなきゃ……たとえ一時綺麗になっていたとしても、現状がああでは意味が無い。……いい。もう一度やり直す。」
神サマがきょとんと首を傾げる。
「何故だ?七日以内にやらねばクビだろう?いいのか?終わるわけが無いぞ。」
「それでもいい。俺は、やり始めたことはきちんとやり通す。母さんからそう教わってる。」
「そうか。」
「ああ。じゃあな。もう邪魔するなよ。」

男は女に背を向けて階段を降りはじめた。
「合格!」
凛と響き渡ったのは神サマの声。

「…………………はぁ?」

男の目の前、階段の下には先輩の庭師たち。何が楽しいのか、腹の底から笑っているようだ。
「合格だ!!十一年振りの仲間に万歳ー!!」
「お前ならやると思ってたよっ!やったなぁー!!おめでとう!」
「これでちっとは仕事楽になるかなぁ!あはははっおめでとう!」
十八人の先輩たちが、口々に騒ぎ立てる。

目を白黒させながら、男は背後を振り返る。そうすれば、神サマが愉しそうに笑っている。そして、男の肩を扇で叩いた。
「合格だ。主にも屈しないその意気込みやよし。仕事をやり遂げようという意気込みやよし。これでお前も城の人間だ。」
「……………はぁあ?」

「つまりな、庭掃除だけがテストじゃねぇってことだ。」
十八人の内ひとりが男に説明する。
「仕事だけ出来ても駄目なんだよ、此処ではな。神サマに認められなきゃ、働けねぇ。…分かるか?城で働く者はみんな不老不死だ。それだけを目的に此処で働きたがる者も少なくない。だから、城の主である神サマ本人のお眼鏡に適う者でなきゃ、ここでは働けない。おめでとう、お前は合格だ!!」

男は眩暈を覚えてそのまま倒れた。
こんな奇妙奇天烈な城で働くのは、ちょっと…いや、かなり嫌だなぁ…などと思いながら階段を転げ落ちる。

神サマは笑う。男を受け止めた一人の庭師も笑う。それを囲んで男の身を案じながらも十七人の庭師も笑う。

十九人目の庭師。
男は今日をもって不老不死を与えられ、未来永劫神サマの美しき穢れなき庭を護る番人となった。男はのちにこの日を「災厄の日」と呼ぶ。

…………災厄の日から幾千年後。

「お前という奴はぁぁ………!お前という奴は、俺の苦労が分からねぇのか!人の仕事を邪魔するなぁぁ!!!神サマだったらそれらしく、大人しく台座に座ってふんぞり返ってろ!!」
災厄の日…神サマに庭を滅茶苦茶にされては、泣く泣く掃除をし直す男の辛く厳しい日常のはじまりの日からずっと、こんな風だ。

「もうたくさんだぁぁー!!!まてこの野郎!!成敗してくれる!!」

男は今日も、泣きながら神サマを追いかける。
(=_=)/(何突然)

……うん、楽しかった(自己満足かよッ)
いやぁ、報われない男の子は書いていて面白い。別に女の子でも構わないけれど、この場合は男の子にしておいて正解だった。
傍若無人な神サマと、どれだけ頑張っても報われない庭師の甘く切ないお話(全然違う)そうして二人は惹かれあって…(いかないッ!)…ともあれ楽しかった。神サマのざっくりな性格は、思った以上に楽々書けた。…満足。

…次のお題、神サマ視点で書いてみようかな(連載かよ)
だって、ちょうどいいお題だし…。
………うん、そうしよう(するのかッ!!)
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