上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
人はそれを王と呼ぶ。
何も語らぬその存在を王と呼ぶ。

「これが、王……。」
知らず膝をつく。
俺が目にしたのは、ただの単なるオアシス。
ただ深く水を湛えた何の変哲も無い水溜まり。澄んだ青い水を抱いた、ただの水溜まり。
ショックだった。
これが王?
これが、俺がずっと探していたもの?
これが、ここに辿り着くまで多くを犠牲にしてきた俺が、ただずっと、ひたすらに求めていたもの?
笑える。
こんなのってないじゃないか。
全て捨てたのに。
まだ、足りないというのか。

「そう、それが王。笑えるだろう?何の変哲も無いこのオアシスが、この世界の王だなんて。」
頭上から声。
気配なんてしなかったのに。
驚くよりも先に剣を抜き去り、身構える。振り仰いだ先、蔦の蔓延る神殿から一人の男がのんびりと歩み出てきた。…まるで無防備。斬ってくれと言わんばかりの、緊張感のカケラも無い緩んだ笑顔。
けれど油断はしない。
俺はそういう世界で生きてきた。笑顔で手を差し伸べ次の瞬間には残忍な表情でもって相手を切り捨てる、そんな世界を生きてきた。隙だらけの人間ほど、その裏には狂気を隠している。
しかも場所が場所。ただの人間が、ここまで辿り着けるはずが無いのだから。目の前の男は敵だ。危険だ。
「…誰だ?」
「君と同じ、王の正体を見てやろうと思ってやってきた冒険者。」
「…この水溜まりが、本当にそうなのか。それともこの水は何か特別な…。」
「まっさかー。ただの水だよ?傷口にかけてみても飲んでみても何にも変わりないただの水。ここの管理人が言うんだから間違いないと思う。その人ったら長年この水を生活用水にしてるそうなんだけど、俺が見た限りじゃ何の変哲もないじーさんだし。」
「管理人……では彼が王に従える『統治者』?」
俺が訪ねれば、男はひらひらと手を振って笑う。
「いんや?ただの人間。俺、ここに来てふた月になるけど、彼のそういう常人離れしたとこ目にしてないから。そんで、俺もここの水飲んでるけど体調に変化はないし。」

行く先を間違えたか。
ここは、王のいる場所ではなかったか。
「どこで道を間違えたのか…。」
「間違えてなんかない。君は確かに辿り着いた。王の城へ。」
いつの間に取り落としたのか。
俺の手から離れて落ちた剣を、いつの間にか正面までやってきていた男が拾い上げて差し出してきた。
俺はそれを受け取ることができない。
だってそうだろう。
もう戦う理由が思い当たらない。

「ここがそうだというのなら、俺はどうしたらいい。民の信じる王は、そもそも存在しないものだったなどと、どうして言える」
今まで失ってきた多くの者たちに。
男は眦を下げて切なく笑う。
「内緒にするんだ。民の信じる王はその世に存在する。それは違えられない真実なんだ。捻じ曲げちゃいけない。」
「でも俺…は、どうなるっ?」

俺は殺された。
王…神への供物だと言われ、村の断崖から突き落とされた。
いや…突き落とされる前、首を落とされそうになって、だから飛び降りた。頭を失った友人が、何日も何日も断崖からぶら下げられていたのを見ていたから。頭が断崖の下へ放り投げられるのを、見ていたから。
あんな風にはなりたくなくて、だから飛び降りた。
でも生きていた。
どうしてあんな高いところから落ちて生きていられたのかは分からない。けれど、生きていた。
だから王に合間見えてやろうと心に決めた。
そうして、心の臓を突き刺し殺してしまおうと。
俺の人生は、あそこで既に終わっている。
今生きているのは、ただ復讐に狩られた亡霊と同じ。

「俺と一緒に世界を旅しないか?ふふっ俺もね、えらくがっかりしたんだよ。でももういいんだ。俺は俺の新しい目的を探す。王に合間見えることだけが俺の人生全てをかけてもの望みだったけれど…こんな王相手に、がっかりして命を落としてやることなんてできやしないんだ。」
清々しいばかりの笑顔。
今、まさに男の手から剣を奪い取って自らの喉を掻き切ろうと思っていた俺は、ゆるりと顔を上げた。
「俺は……もう、」
「駄目じゃないさ。一緒に行こう?」
「でも、俺はたくさん殺し」
「過去はいいんだ。ここからやり直せばいい。いくらでもリセットしたらいい。……聞いてよ、俺なんてこれが4度目だよ。我ながらしぶといと思う。4度も名を変えて、過去を捨ててる」
「俺は、そんな簡単にはできな」
「できるさ。君の名前は?なんていうんだい?俺の名前は…ああ、うん、まだ決めてないんだ。次はもっと格好いいのがいいなって。じーさんも色々案上げてくれるんだけど、まだ決めらんなくってさー。あ、そうだ。いっそ君がつけてくれないか?それがいい。お近づきの印にさ、すげー格好いい名前を俺に頂戴よ」

男があんまり眩しくて。
俺は、目を細める。
俺でも、やり直せるかもしれないと思うから。
心が少し、軽くなったから。
だから。
「もし。もし俺がやり直せるのなら…これが、2度目だ。俺の名前は……どうしたら、いいのか…分からないけど。お前の名前も…考えてみる。」
「そ?ありがとな。よぅし、こっちおいで。じーさんを紹介しようじゃないか。えらく底意地の悪いがめついじーさんだけど、イイ人だよ。何だかんだと面倒見てくれる。」

手を差し出される。
やけに紳士なので、おかしくなって少しだけ笑う。
「俺は男と手を繋ぐ趣味はもちあわせてねーよ。」
すると心底驚いたという表情で、先を行こうとしていた男が振り返る。差し出したてはそのまま。
「あれ、俺の目がおかしいのかな?君、女の子だろ。男のふりしたって駄目だよ、大抵の奴の目は誤魔化せても、俺には無理。」
「1度目に、女は捨てた。」
「じゃ、2度目はまた戻りなよ。あれかな、女だってなめられるのが嫌なの?だったら俺がそーいう失礼な奴には一発ガツンと言ってやるけど。」
「何でお前が言うんだよ。」
「だってもう相棒だろ?」
「い、いつの間に」
「今さっき。だから俺、もう君に命預けてるから宜しく。君が侮辱されるようなことがあったら、本気で怒るからな。だから戻ればいい。本来の君に。」
「断る。戻れるわけがない。口調も仕草も完全に男だからな。それにはっきり言って、男でいる方が気楽なんだ。ていうか絶対嫌だ、お前なんかに庇われるのは」
「えーなんでー?いいじゃん、相棒のためならーって、憧れるシチュエーションじゃない?」
「断る。それ以前に相棒になるのすら、了承してない。」
「でも、一緒に旅するのは了承してくれたんだよな?」
「そんなことはない。」
「えー!!君、ちょっと、俺ったらはじめて自分から誰か誘ったんだよ?一世一代の告白を、踏みにじっちゃってもいいのかよー。後悔するよー。」
「するか。」
「きゃー待ってよー!せめて案内くらいさせてよー。先に行かないでー。」

そうしてはじまる新しい物語。
スポンサーサイト

Comment

承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです
承認待ちコメント
このコメントは管理者の承認待ちです

Post Comment

管理者にだけ表示を許可する

Trackback

Trackback URL
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。