上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
「嗚呼、君の前では、この薔薇の美しさですら色褪せてしまうんだね。」
色んな意味で恥ずかしく、物凄い科白。
声の主は青銀色の美しい髪を持つ青年。梳られたその髪は太陽の光を浴びて尚一層輝きを増し、見る者の心を捉える。同じく青銀色の長い睫毛と、シミひとつないきめ細かな白い肌と、紅をひいたように潤っている唇。誰が見ても第一印象は「とびぬけた美人さん」である。

その青年に、ブリザードをも凌駕するだろう冷ややかな視線が送られた。見る者を凍りつかせるような、絶対零度の微笑。
「……―ばっかじゃねぇの。くっさ!だっさ!!お前、自分で自分が恥ずかしくねぇか?」
続いて投げつけられた言葉の刃。研ぎ澄まされたその刃からは、まさに眼前の青年を傷つけようとする意思がくっきりはっきり読み取れた。

しかし青年は動じた様子もなくへらりと笑って返す。そして手にしていた青い薔薇の花束を、尚冷たい視線を向けてくる少女に差し出した。
「やあ、こんにちは。君は今日もまた一段と綺麗だね。」
「失せろ。」
少女に花束を受け取る意思はまったく見られない。顔全体で不快感を露わにし、腕を組んで青年を睨みあげる。その瞳は深い緑。編みこまれた髪は深紅のビロードを広げたような、燃え立つ赤。
少女の瞳の中で緑の炎が舞いあがり、男を捉えた。
「いい加減、ここへ通いつめてくるのをやめたらどうだ。いいか、あたしはお前のことなんざちっっっとも好きじゃねぇんだ!」
ちっっっとも、にこれでもかと言わんばかりに力を入れる少女。青年は何が楽しいのか幸せそうにふわふわと笑って返した。

「君のその太陽のように艶やかで鮮やかな髪に似合うと思って、青い薔薇を選んだんだよ。…うん、とっても似合うね。とても、綺麗だ。」
「っぐ…ぅ。」
まるで人の話を聞いていない様子の青年に、少女は肩をいからせる。言いたいことが喉もとに詰まってしまうほど、気が昂ぶっている。…そう、怒りで。
青年は尚も続ける。

「けれどやっぱり、どんな薔薇も君には敵わないね。どんな宝石も、どんなドレスも、どんな言葉も…君には敵わない。」
「ばっ馬鹿かお前は!っ…そんな、恥ずかしいことを言うな!あたしは怒っているんだぞっ?分かってるのか、迷惑してるんだっ。」
「うん、怒った君も素敵だね。…ふふっ…顔が赤いけど、照れているのかな?君は綺麗なだけじゃなくて、とっても可愛いんだよね。」

顔が赤いのは怒りのあまりに頭に血が上っているからだ!!
そう叫びだそうとした少女の腕に、花束が押し付けられた。殴りかかってやろうかと、組んでいた腕を解いた瞬間の出来事だった。
少女は反射的に受け取ってしまい、呆然と青年を見上げる。
普段おっとりしている青年の電光石火の早業に驚いたのと、不意に頬にかかった手の平に身構えてしまったのと。

するりと頬を撫でられ、少女は勢いよく身を引いた。その腕に薔薇の花束を抱えたまま。
少女は薔薇を押し返すチャンスを失ったのである。唯一のチャンス、押し付けられてすぐに押し返せばよかったところ、一瞬の判断を見誤って退いてしまったのだから。

少女は内心舌打ちを禁じえなかった。
薔薇は薔薇。たとえ青年が自分に寄こした物だとしても、生き物を地へ投げ捨てるなんてことはできない。薔薇に罪はない。となれば仕方ない、少女は薔薇を抱えなおした。

「…っっら、来月の闘技大会は覚えてやがれ!今度こそ、お前をぎゃふんと言わせてやるからな!あたしはな、お前に負けたのをまだ根に持ってるんだ!!わかったか!首洗って待ってろっ!!」

ずびしぃっ!と指差して。少女は走り去った。
青年が訪ねて来たのは、少女のひみつの修行場で。青年のすぐ近くには、少女の荷物が放置してあって。とすればいずれ、少女は戻ってこなくてはならないだろう。青年は悠長に手を振って少女を見送った後、その荷物に目をやって、また柔らかに微笑んだ。

「……くすくすっ…男の子としては、やっぱり女の子にイイところを見せたいじゃないか。だから、負けてあげないよ?」

とりあえず荷物の番をしようかと、青年は荷物の置いてある木陰に腰かけた。鼻歌なんて歌いながら。

【続きを読む】

スポンサーサイト
今日、「ハノイの塔」なるパズルに挑戦した。
知る人ぞ知る、とても有名なパズルらしい…。
天性のパズル好きである自分。ハノイという名前だけは知っていたものの、実際にそれがどんなものであるかは知らなかった。ネットで検索してまで調べようとも思わなかったし…―この辺、本当にパズル好きを自負してよいのか怪しいものではあるが、まぁ、自分が実際に手元に用意されたものにしか興味を示さないずぼらな性格であることは承知している―…長い人生いつかは巡り会うだろうと高を括っていた。

そんなわけで、ハノイの塔。
長い人生…なんて言っていたら、早くも本日巡り会わせてしまった。ぅーん…運命って分からない(と、詩的なことを言ってみる)
よもやこのパズルと出会ったことによって自分の人生が終わるわけでもないだろうに、何故か緊張した(笑)今思い返しても不思議なことに、ハノイに出会った瞬間、体を電流が走りぬけた(ぇ)

なぁんて馬鹿な緊張感と共に挑戦してみたハノイの塔。
……なんの予備知識もなくやってみたものの…嗚呼、自分のお馬鹿さ加減をとんでもなく甘く見ていたorz

ひぃぃぃぃん……わっかんねーよぅー.・゜(ノ△<)゜・.
おかぁちゃーん、おとぅちゃーん、オイラ馬鹿だからわかんねーよぅー…そもそもハノイって誰だべーっ(床に突っ伏して号泣)


(閑話休題)

ぇーと、ちなみに自分のやったハノイの塔を簡単に説明すると、『AからEまでの5つのブロックが塔になっていて…それを、別の位置で逆さまの塔に作りかえるパズル』です。
なんだそりゃ、と思う人もいるだろうけれど、これ以上うまい説明の仕様がない、いたってシンプルなパズル。

…最初の10分、パズル好きの意地みたいなものが発動されて、解法を請おうとは思わなかった…。だってどう見ても、解法は至極単純なものだと思えてならないくらい、見た目簡素なパズルだったので。そんなわけで色々とイジってみながら、じっくり考えた。
考えながらやっていたら、見事193手で解けました(ノ□*)ノ!!
でもね、コレ…最短手じゃなかったんですよねぇ…(がっくし…)

そんなわけでそれから更に5分。
……うん…唐突に解けました!!(ぉ)最短手とされる161手達成っ♪くすくすっ……なんだ、自分ってば、やればできるじゃないかー(*‐_‐)(すっかり自己満足に浸るお馬鹿サン)

しかし!!世界は広かった!!最短手は161手だと公式では言われているのに…155手でそれをクリアしたツワモノがいるらしい!!…何ー故ー(すっかりプライド無くし)

……くすん…精進します。
そして155手を達成してみせる…。

追記はハノイの塔について調べてみた事柄たち。
自分の自己満足なので、特に読む必要性はないっす。ええ、読んでもつまんねーだけですよ。

【続きを読む】

彼女の生まれは、世界中のどんな地図にも載っていない小さな小さな村。国はまた、世界中で最も小さなそれである。
彼女は生まれ、そして村は死んだ。
彼女は育ち、そして国は滅んだ。
彼女は生き続け、そして歴史は幾度も巡った。

彼女は独りきりで、母と父から継いだ「業」を解くために、ただ生きている。

「あんたって、誕生日いつなの?」
「なに、突然。」
友人からの突然の質問。彼女は僅かにきくりと肩を揺らした後、あたりさわりなく笑って返した。しかし友人は笑わなかった。むしろ、彼女を咎めるように…彼女の全てを見透かしているように、彼女の瞳をしんと見つめてきた。
「思ったの。あたし、あんたの誕生日はおろか…あんたの家族のこと、好きな食べ物や色…出身や趣味すら…何もかも知らないって。分かってるのはあんたの名前だけ。」
「………。」
「……おかしいとは思わない?あたし、あんたと知り合ってから、今日でもう4年になるんだよ。」

4年…。

彼女は曖昧に微笑んで、友人から目を逸らした。
「そうかな、おかしいかな?あたしは別におかしいとは…。」
「おかしいとか、そういうんじゃない!!知りたいんだよ!知りたいと思って、何が悪い?教えてはもらえないのか?なぁ、どうしていつもはぐらかすんだ?…あたしには、言えないのか?」
「…言えないってことは、ないけど…。」
「じゃあ、教えてよ!あんたの誕生日はいつ?あんたはどこで生まれたの?どうやって育ってきたの?……―あたしは、このまま、あんたの友達でいてもいいのか?」

(トモダチだと思ってたのに…。)

彼女は考えた。
彼女がこのまま友人の想いに応えなければ、続く言葉はソレひとつだと。
過去、幾度となく聞いてきた言葉。何度聞いてもいつまで経っても慣れることのない言葉。罵倒も嘲りも、ソレの重さには敵わない。
裏切ったつもりはない。そんなことはしたくない。けれど、生きていくためには…人と付き合って、関わりあって生きていくためには、真実を言うわけにはいかなかった。自分が普通でないことは嫌というほど知っている。普通の人間として生きていくにはとてつもないほどの弊害があるのだと、よく分かっている。

「…ごめん…。」
「何が…ごめんなの?」
「…トモダチでいてくれて、ありがとう。でももう、これで終わりにしよう。あたしは、明日ここを離れようと思う。」

黙っていなくなればいいのに、こうして口に出してしまっている。
彼女は思う。あたしは馬鹿だ。…どうして自分はこうも我儘なのだろう…。止められちゃ困るのに、止めて欲しいと思うだなんて。
真実を話したいと思う反面…拒絶されることを恐れる反面…それでも、もしかしたら受け入れてもらえるのではないかと思ってしまう。
それは、とてもいけないこと。

ありえないこと。

「あたしはずっと昔、小さな村で生まれた。もう、世界中のどんな地図にも載っていない、本当に小さな国の、小さな村で。…その村はもうない。滅んで、国もまた滅亡した。あれから長いこと、あたしは自分の正体も分からずに、生き続けている。…あたしは人間じゃない。人間じゃないんだ。分かるのはそれだけ。だから、もう一緒にはいられない。これ以上一緒にいたら、あたしはあんたを殺してしまうかもしれない。」
「………なんで?」
「取り残されるのが好きじゃないんだ。……あたしはね、あんまり長く誰かと一緒にいると、その人間がいつかは自分をおいていくんだということばかりを考えるようになるんだ。どうしようもないんだ。止められない。……それで、いずれ来る別れなら…それが避けられないものであるのなら、あたしが直接手を下したいと思ってしまう。あたしは、狂ってるんだ。」

どんなに切望しても、手に入らないものがある。
友情の美しさだって、生きることの素晴らしさだって、太陽の輝きも、砂糖菓子のとろけるような甘さも、人の笑顔の鮮やかさも、長い冬を越えて春を迎えたときの喜びも、大切な人を守りたいと想う強さも、どんなことだって、彼女は全てを知っている。

けれど、死を知らない。
彼女にとって、それはただ甘美な響きでしかない。
死を恐れる者の心を知らない。死を退けたいと願う者の気持ちが分からない。死を願ってやまない彼女にとって、それらは理解しがたい人種でしかない。

手の平で目元を覆って、彼女は笑った。
涙はもう枯れ果てた。
あとはもう、今すぐここを立ち去るだけ。

―…彼女はいつも夢に見る。
今はなき古里を。
川のせせらぎに耳を澄ませ、暖かな日差しの下でまどろんでいる夢を。

【続きを読む】

タイトルに意味はアリマセン(初っ端から意味不明だよっ)

突然ですがこのブログ…というか、このスキンの時だけ色々な曲が聴けるように細工してあるのは、何度か遊びに来てくださっている方々もご承知のことかと思います。
その中で、ここ数日で曲数が劇的に増えたことに気づいた方はいるでしょうか(笑)そう、増えたんです…ぁ、いや間違いました、増やしたんです。増やさせてもらったのです、えぇ、勿論自分の勝手で(ぇー…)

今まではお借りして、大家さんへお手紙させて頂いて、それからこっそりと増やす…そんな風にしていたのですが、気が変わりました(何)
今日はお借りしている曲の大家さん…つまり作曲家さんたちの素敵な素敵な素敵なHPのご紹介をしたいなぁ…と思います。なので、いつになく真面目に敬語を使ってブログ書いてます(…真面目か?)
ちょっとそこ!!今更取り繕っても遅いとか言わない!自分はね、やるときゃやる子なんですからねっ(画面の向こう側で笑った貴方をびしりと指差し/ぇ)

熱く(暑苦しい、の間違いでは…)語りすぎてちょいと長くなりそうですけれど、どうぞお付き合いくださいませ。
それから、この後紹介させていただくHPにはリンクから飛べますので、興味をもたれた方では是非一度行ってみてはいかがでしょう。
…どこも最高ですよ(ぼそりと呟き/いや、ここを大声で言えよ)

【Happy Blessing】管理人(作曲家)様 : LaLa様

穏やかで優しくって…暖かな曲がたくさん公開されている所です(へらり)
桜色を基調とした可愛いHPで、見ているだけでなんだか癒されちゃいます…!
自分の駄ブログにお借りした曲を上げようと思い立ったのは、こちらの曲を聴いたのがキッカケです。
ブログに上げて色々な人に聴いてもらうことで、曲に対する感動を共感したい!!…とか…何とか…(ぶつぶつ/何さ)

そもそも、自分は100のお題を答えるときは、何かしら音楽を聞きながら書くことが多いのですよ。
ひょんな事からこちらのHPを発見した自分…ちょっとした偶然で出会ったHPだけれど…その偶然に感謝っ!
そして何気なく聴いた、はじめての「願い星」でカルチャーショックを受けた自分(ぇ)
と…まぁ、そういう話は次回の曲紹介でぼちぼちと…。

曲お借りしていますメールの際に頂いた曲も、かなりのお気に入りになりました(へら)
…コレに関しては、自分ひとりでにやにや楽しませてもらっています(お母さん!ココに変な人がいるよっ)
だってほら、折角頂いたのだし、他の人には勿体無くて聴かせられn(なんて心が狭いんだ!)

そしてこちらのHPの曲のタイトルは、曲調そのものの優しい印象を受ける言葉が多いのですよ。

【音楽素材屋 海龍】管理人(作曲家)様 : 海音様

モノクロであっさりと見やすく作られた、とにかく格好いいHPです。
「クール」という言葉の使い勝手をよく知らない自分が、「クールってのはこういうことか…」と一人静かに納得した場所です(何それ)
公開されている曲はどれも非常に聴きやすくて…というのも、曲のイメージがとっても湧きやすいんですよねぇ。
ちょっと個性的な曲のタイトルも素敵ですし(頷き)
海音さん、最初はノリのいい…スピード感のある曲を得意としてらっしゃる方かと思ったのですが…読みが甘かったんです、自分。
他にもじんわりと切なさのこみ上げてくる曲だったり、ほんわり優しくなれるような曲だったり、そういうのもばっちり作ってらしたんですよ。
えぇ、まったく、自分が浅はかでした(まったくだ)

最近はTop Pageで流れている曲に興味津々っす(ぐ)
イメージばかりが先行して、どんどんと妄想の道をひた走って行く自分がいます(そしてはじまる妄想劇/ぇ)

夕闇迫る摩天楼を、スーツに身を固めた男が脇目も振らずに歩いているんです…。行き先は知る人ぞ知る、街の小さなバー。
店主は裏の世界に精通したいわゆる「仲介人」で、彼はそこで店主から危険な仕事を請け負っているんですよ。
表情ひとつ変えずにあらゆる仕事をこなす彼…。
どんなときでも黒スーツをきちりと着こなし、武器といえば小さな刀のみ…人は彼をこう呼ぶ、「掩殺の闇鴉」t(強制終了)

すんません、とばしすぎましたorz

【OLD WOODS HUT】管理人(作曲家)様 : VaLSe様

森の中、茂みのぽっかりと開いている所に人知れず立っている小屋が舞台です(ぇ?)
Topの扉を開けるとすぐ、小さな部屋が目の前に現れるんですよ。
んで、ポインターでビアノや本棚の中の箱や写真立て、机の上のパレットやらメモ用紙やら何やら…触るとコメントが出てきて面白い!
…じゃ、なくて曲のお話を…(そりゃそうだ)

こちらに公開されている曲は全て、とても色濃くRPG!っていう雰囲気が出ています。
なので、どの曲にもありありと物語が浮かんでくるような、そんな面白いくらいの様々な世界観が存在しているのです。
そしてここでもっとも言いたいのは、タイトルが曲を一寸の狂いなく言い表していると事実。
…凄いんですよ…本当に。
タイトルに「氷」とあればその曲は冷たく硬質な感じがしますし、「市場」とあれば人のざわめきや市場特有の陽気さが表れているのです。
「砂」とあればからっからに乾燥した感じが、「風」とあればそれの吹き付ける感じが…とにかく、そのまんまなんです。
すげーです(ぐっ)
「便利屋マーチ」なんて…なんというか、遊んじゃいるけど仕事はしっかりやりまっせー的な雰囲気がします(お前だけだろ)
「表通り」と「裏路地」の二曲の相違も面白いですよー。

こちらでは色々な世界観を味わうことで出来ます(へら)
RPG好きにはたまらんHP…(ふふり)
坂道を、駆け下りる。
告げられたその報せを、あの人に真っ先に届けるため。

「ひゃっほーう!!みんな、聞いて!明日朝一番で、関所が開放されるって!!団長っ!僕ら、自由だよ!!また旅に出られるよ!!」
騒々しい街の片隅にある、小さな酒場。顔見知りばかりが年がら年中居座っている、ちょっとした集会所。酒場、という名でありながらもそこには大人だけでなく子供もよく遊びに来る。お酒のまったく飲めない紳士淑女もやって来る。
店主お得意のオムライスをご馳走になるために。
仲間と世間話に花を咲かせるために。

僕がそこに飛び込んで叫んだ第一声。
興奮している僕に対して、みんなはぽかんとした顔で僕を見つめるだけ。…なんだろう、僕の言うこと分からなかったのかな。そんなに早口で捲くし立てたつもりはないけれど。
「…お、おう…坊主。なん、だって?悪いがもう一度、言ってくれるか?…関所が…解放…てのは、なんだ、冗談か?」
僕は思い切り頬を膨らませた。不快感を顔全面で表すためだ。
空のグラスとナプキンを目の前に掲げたまま寝惚けたことを言っている店主の前に、僕はずかずかと歩みよる。勢いよく机の上に飛び上がると、店主…いや、団長のグラスをひったくった。そして、床に放り投げた。
グラスは耳障りな音を立てて砕け散る。
くぅー…!!なんて気持ちがいいんだろう。
「冗談なもんか!!いいか、さっき関所に役人たちがぞろぞろやって来て、それででっかい張り紙してったんだ!!そんでな、街中の人間にこれを知らせるためにって、ビラも沢山配ってたんだ!ほら、ほら、ほら!!!これ、見てよー!!」

僕は、団長に思い切りそのビラを押し付けた。
団長はそれでもまだ少しぼけらっとしていたが、僕が「団長!」と呼びかけると、はっとしたように僕からビラを奪い取ってそれに目を通し始めた。
いつの間にか団長と僕の周りには人の生垣ができていて、みんながみんな、団長の持つビラを覗こうと騒ぎ始めた。
流石に腐っても元旅芸人一座の団員。長旅で養った腕力だけには自信があるようだ。僕はあっという間に生垣の外に追い出され、店の隅っこで腐ることになる。

なんだよ、みんな。旅をするのはもう諦めたとか言ってたくせに、きっちり体力トレーニングしてんじゃないか。だって、僕を押し出したときの力ったら、かなりのものだった。
なんだよ、いつかくる解放日を待ち望んでいたのは僕と団長だけじゃないのかよ。…なんだよなんだよ、ひどいじゃないか。

…だってそうだろ。
この僕が、あの報せを持ってきたのに。この僕が、こうやってのけ者にされるだなんて。なんて屈辱的なんだ。もっと、褒めてくれたっていいのに。
しかも、僕と団長が解放日を心待ちにしているのを、みんなで笑ったくせに。どーせ無理だと言って、笑っていたくせに。…なんだよ、やっぱりみんな、本当は諦めてなかったんじゃないか。

この店に通ってくる子供は、僕ら一座の夫婦の子。紳士淑女も元は一座の人間。そう、この店は一座の解散を嘆いた団員たちのために団長が作ったお店。だからお客はみんな一座の人間。
今やお店は団長を中心に一枚の紙切れに大騒ぎだ。
腐りきった俺一人を残して、ね。

…さて、ずらずらと文字が羅列されているそのビラを僕なりに要約すると、こうなる。
『東の国と北の国の戦争勃発から四年、西の国(僕らのいるこの場所、ね)は戦争被害を避けるために関所を封鎖した。けど先日、二国間で休戦協定が結ばれた。だもんで、西の国は再び関所解放を行おうかと思う。ただし(この「ただし」が曲者なんだよなー)、これは明朝からの二日間に限る(二日間試験的に解放してみて、問題なければ今後も解放を行うってことらしい)。その二日間は正式な「解放」じゃないんで、関所を出たその日中に、また関所に戻って来ること。これを守れない者が出た場合は、本格的な解放は延期される。…まぁ、きちんと規則さえ守れば大丈夫さ。』
…て感じ。…ぁーぬるみきったオレンジュースが美味しいな。
けっ。折角吉報持ってきてやったのに、俺は、仲間はずれかよ。

「坊主!!やったなぁー!解放だぞ!また、あっちこっち行けることになりそうだぞ!おい坊主!また、旅に…旅に出られるぞー!!!」
「ぎぃゃあぁぁあ!!!」
俺は突然高々と持ち上げられた。団長に、だ。
正直なところ、男が男に持ち上げられて嬉しいことなんてひとつもない。いや、まぁ、女に持ち上げられたらもっとヘコんでしまうんだけど…。
けれど…うん。団長が泣いて喜ぶのを見ていたら。みんなが、抱き合ったり飛び上がったり、歌ったり踊ったりしているのを見ていたら。

腐った気持ちは消し飛んでいた。

「長かったなぁ…っっ長かったなぁ!四年間…ずっと待っていて…よかったなぁー!おい、坊主、旅だぞ!!夢にまで見た、旅だぞ!!」
「分かってるよ!旅だよ!またみんなで、海に行こうよ!夜は、森で歌って踊って…たくさん、色んな所に行こうよ!」

僕らは自由だ。
まだ完全に解放されたわけじゃないけれど、でも、その日は近い。

【続きを読む】

何を望んで何を得たのか。
何を失って、何を欲するのか。

…なんにも分からなくなってしまった。

指先も手の平も凍るように冷たくて、掴んだ雪の塊が溶け落ちることはない。青年の体は芯から冷え切り、それでも寒さに震えることはしなかった。
「椿が咲きましたね…。」
「そうだな。今年はもう無理かと思っていたが、流石に君が特別に目をかけた土地だ…とても、強い。」
君…と。それは主君を指す言葉。青年が生涯をかけて仕える、漆黒の王。青年の発する「君」からは、青年の王に対する敬愛と絶対なる忠誠、そして信頼の情が垣間見えた。青年が王を如何に大切に想っているかは、脇に控える女以外、誰も知らない。
女は青年の言葉に無言で頷き、青年の頭上に広げている真っ赤な傘を持ち替えた。

腐敗した大地と、枯れた空。
精気は枯れ果て、最早救いようがないほどに大地は生きることを諦めていた。…故に、そこに住む人々は生活に窮することとなる。
やがて一人二人と生まれ育ったこの土地を捨て、遥か遠い都へと旅立った。
かつては花の都と称された広大な町は、今や瀕死の危機にある。

それでもこの土地で生まれ、この土地を愛し、最期をこの土地で迎えようとする者がいる。誰もが見捨てた土地の再生を願い、種を蒔く者がいる。
その願いを受け、種は芽吹き花を咲かせる。

ただ一輪の椿。
かつて、その土地一面に咲き誇った赤の花。

雪よりも白い青年の顔が、花びらが綻ぶように緩む。そっと椿の前に屈みこみ、そうして限りなく柔らかに…決してそれにはふれないように、椿の上に重く降り積もった雪を払った。
「これを植えた男は、これを見ることなく逝ってしまったのか。…残念だったな。」
笑みを崩すことなく、まるでかわいそうがる様子もなく淡々と言う青年。その背後に気配もなく立つ女は空を仰ぎ、ちらつく雪に目を閉じた。
「確かに、残念ですね。けれど主、この椿の面倒は、男の妹が引き継いでいるんですよ。」
「妹…男には、そんなものがいたのか。天涯孤独の身ではなかったか?」
「いいえ、実は男には双子の妹が…いわゆる生き別れの兄妹というものがいたのです。男はそれを知らずして死に急ぎ、女は成人を迎えた。そして女は、その成人の儀の折に、これまで実の親だとばかり思っていた男女に真実を告げられたのです。私たちはお前の本当の親ではなく、生まれたばかりのお前を本当の親から買った人間なのだと。そしてお前には、双子の兄があるのだと。」
「……その女は、これが男の椿と知って面倒を見ているのか?」
「いいえ。女がこの都へ辿り着いた時、男は既にこの世を去っていました。女は偶然この庭を横切り、偶然この椿に目を奪われ、そしてこの椿に恋をしました。」
「だから面倒を見ている、か。…恐ろしい偶然もあるものだ。女の親は、女がこの死の都に根を張ることをよく許したな。」

「許してはくれませんでしたよ。」

ふ、と男の影にもうひとつ影が重なった。男がゆっくりと顔を上げると、そこには深緑色の髪を風になびかせた少女が立っていた。
「許しては、くれませんでした。けれど、私はどうしてもこの椿と共にいたかった。どうしても、一緒にいたかったんです。だから、親とは縁を切りました。婚約も破棄してきました。彼は私を愛してはくれたけれど、私を分かろうとはしてくれなかった。私は彼にとって、都合のいい自慢のお人形さんでしかなかった。……もはや私には、何一つ残ってはいないんです。あるとすれば、この椿だけ。」
少女は晴れやかに笑う。

「賢者様。私は今、とても幸せです。」
雲間から光が差す。
逆光の向こうで微笑む少女に青年は眩しげに目を細め、そしてつられるようにして小さく微笑した。女は久し振りに見た青年の本当の意味での笑顔に僅かに瞠目し、そっと目を伏せた。

「主、そろそろ行きましょう。」
「そうだな、君が待っている。……女、その椿、大事にするといい。私もまた、見に来させてもらおう。」
「はい、いつでもどうぞ。今度は温かいスープを用意してお待ちしております。」

ただ一輪の椿。
これが、東方の死の都と呼ばれていた町を救う鍵となることなど、今はまだ誰も知らない。
椿に恋をし全てを投げ出した一人の少女と、王のためならば命を落とすことすら厭わない一人の賢者との出会い。これは必然。

都が息を吹き返すのは、この出会いから四年後のこと。
まだ誰も知らない真実。

【続きを読む】

| main |

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。