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人はそれを王と呼ぶ。
何も語らぬその存在を王と呼ぶ。

「これが、王……。」
知らず膝をつく。
俺が目にしたのは、ただの単なるオアシス。
ただ深く水を湛えた何の変哲も無い水溜まり。澄んだ青い水を抱いた、ただの水溜まり。
ショックだった。
これが王?
これが、俺がずっと探していたもの?
これが、ここに辿り着くまで多くを犠牲にしてきた俺が、ただずっと、ひたすらに求めていたもの?
笑える。
こんなのってないじゃないか。
全て捨てたのに。
まだ、足りないというのか。

「そう、それが王。笑えるだろう?何の変哲も無いこのオアシスが、この世界の王だなんて。」
頭上から声。
気配なんてしなかったのに。
驚くよりも先に剣を抜き去り、身構える。振り仰いだ先、蔦の蔓延る神殿から一人の男がのんびりと歩み出てきた。…まるで無防備。斬ってくれと言わんばかりの、緊張感のカケラも無い緩んだ笑顔。
けれど油断はしない。
俺はそういう世界で生きてきた。笑顔で手を差し伸べ次の瞬間には残忍な表情でもって相手を切り捨てる、そんな世界を生きてきた。隙だらけの人間ほど、その裏には狂気を隠している。
しかも場所が場所。ただの人間が、ここまで辿り着けるはずが無いのだから。目の前の男は敵だ。危険だ。
「…誰だ?」
「君と同じ、王の正体を見てやろうと思ってやってきた冒険者。」
「…この水溜まりが、本当にそうなのか。それともこの水は何か特別な…。」
「まっさかー。ただの水だよ?傷口にかけてみても飲んでみても何にも変わりないただの水。ここの管理人が言うんだから間違いないと思う。その人ったら長年この水を生活用水にしてるそうなんだけど、俺が見た限りじゃ何の変哲もないじーさんだし。」
「管理人……では彼が王に従える『統治者』?」
俺が訪ねれば、男はひらひらと手を振って笑う。
「いんや?ただの人間。俺、ここに来てふた月になるけど、彼のそういう常人離れしたとこ目にしてないから。そんで、俺もここの水飲んでるけど体調に変化はないし。」

行く先を間違えたか。
ここは、王のいる場所ではなかったか。
「どこで道を間違えたのか…。」
「間違えてなんかない。君は確かに辿り着いた。王の城へ。」
いつの間に取り落としたのか。
俺の手から離れて落ちた剣を、いつの間にか正面までやってきていた男が拾い上げて差し出してきた。
俺はそれを受け取ることができない。
だってそうだろう。
もう戦う理由が思い当たらない。

「ここがそうだというのなら、俺はどうしたらいい。民の信じる王は、そもそも存在しないものだったなどと、どうして言える」
今まで失ってきた多くの者たちに。
男は眦を下げて切なく笑う。
「内緒にするんだ。民の信じる王はその世に存在する。それは違えられない真実なんだ。捻じ曲げちゃいけない。」
「でも俺…は、どうなるっ?」

俺は殺された。
王…神への供物だと言われ、村の断崖から突き落とされた。
いや…突き落とされる前、首を落とされそうになって、だから飛び降りた。頭を失った友人が、何日も何日も断崖からぶら下げられていたのを見ていたから。頭が断崖の下へ放り投げられるのを、見ていたから。
あんな風にはなりたくなくて、だから飛び降りた。
でも生きていた。
どうしてあんな高いところから落ちて生きていられたのかは分からない。けれど、生きていた。
だから王に合間見えてやろうと心に決めた。
そうして、心の臓を突き刺し殺してしまおうと。
俺の人生は、あそこで既に終わっている。
今生きているのは、ただ復讐に狩られた亡霊と同じ。

「俺と一緒に世界を旅しないか?ふふっ俺もね、えらくがっかりしたんだよ。でももういいんだ。俺は俺の新しい目的を探す。王に合間見えることだけが俺の人生全てをかけてもの望みだったけれど…こんな王相手に、がっかりして命を落としてやることなんてできやしないんだ。」
清々しいばかりの笑顔。
今、まさに男の手から剣を奪い取って自らの喉を掻き切ろうと思っていた俺は、ゆるりと顔を上げた。
「俺は……もう、」
「駄目じゃないさ。一緒に行こう?」
「でも、俺はたくさん殺し」
「過去はいいんだ。ここからやり直せばいい。いくらでもリセットしたらいい。……聞いてよ、俺なんてこれが4度目だよ。我ながらしぶといと思う。4度も名を変えて、過去を捨ててる」
「俺は、そんな簡単にはできな」
「できるさ。君の名前は?なんていうんだい?俺の名前は…ああ、うん、まだ決めてないんだ。次はもっと格好いいのがいいなって。じーさんも色々案上げてくれるんだけど、まだ決めらんなくってさー。あ、そうだ。いっそ君がつけてくれないか?それがいい。お近づきの印にさ、すげー格好いい名前を俺に頂戴よ」

男があんまり眩しくて。
俺は、目を細める。
俺でも、やり直せるかもしれないと思うから。
心が少し、軽くなったから。
だから。
「もし。もし俺がやり直せるのなら…これが、2度目だ。俺の名前は……どうしたら、いいのか…分からないけど。お前の名前も…考えてみる。」
「そ?ありがとな。よぅし、こっちおいで。じーさんを紹介しようじゃないか。えらく底意地の悪いがめついじーさんだけど、イイ人だよ。何だかんだと面倒見てくれる。」

手を差し出される。
やけに紳士なので、おかしくなって少しだけ笑う。
「俺は男と手を繋ぐ趣味はもちあわせてねーよ。」
すると心底驚いたという表情で、先を行こうとしていた男が振り返る。差し出したてはそのまま。
「あれ、俺の目がおかしいのかな?君、女の子だろ。男のふりしたって駄目だよ、大抵の奴の目は誤魔化せても、俺には無理。」
「1度目に、女は捨てた。」
「じゃ、2度目はまた戻りなよ。あれかな、女だってなめられるのが嫌なの?だったら俺がそーいう失礼な奴には一発ガツンと言ってやるけど。」
「何でお前が言うんだよ。」
「だってもう相棒だろ?」
「い、いつの間に」
「今さっき。だから俺、もう君に命預けてるから宜しく。君が侮辱されるようなことがあったら、本気で怒るからな。だから戻ればいい。本来の君に。」
「断る。戻れるわけがない。口調も仕草も完全に男だからな。それにはっきり言って、男でいる方が気楽なんだ。ていうか絶対嫌だ、お前なんかに庇われるのは」
「えーなんでー?いいじゃん、相棒のためならーって、憧れるシチュエーションじゃない?」
「断る。それ以前に相棒になるのすら、了承してない。」
「でも、一緒に旅するのは了承してくれたんだよな?」
「そんなことはない。」
「えー!!君、ちょっと、俺ったらはじめて自分から誰か誘ったんだよ?一世一代の告白を、踏みにじっちゃってもいいのかよー。後悔するよー。」
「するか。」
「きゃー待ってよー!せめて案内くらいさせてよー。先に行かないでー。」

そうしてはじまる新しい物語。
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苛立ちが隠しきれなくて、歯噛みする。
笑顔で、笑顔で、笑顔で。
拳を握って、堪えて。
笑う。

俺はお前の何なんだ?
お前は俺の何なんだ?
俺はお前のことなんか何ひとつ知らないのに。お前だって俺の何たるかを何ひとつ知らないくせに。
そのお前がどうして俺を傷つけることができると思う?
ふざけるな。

俺の手の中で、先見者から手渡された純白の宝石が砂のようにほどけた。そうして指先からこぼれ落ちていく。これはつまり、俺ではあの悪魔に添えないということ。
現在、根絶の危機にあるといわれているフォーチュンの悪魔。それを相方とし添うことのできる者は、まさに選ばれた者。純白の宝石をほどくことなく握り締めることができる者だけが、フォーチュンに添うことを許される。

俺が悪魔憑きに憧れたのは、他でもないフォーチュンに魅了されたからだ。フォーチュン以外の悪魔には興味はない。
周囲にすすめられた数多くの悪魔たちを無視してきたのは、俺がフォーチュンだけを見ていたから。他の悪魔になんて心が揺らがなかった。

フォーチュン憑きの悪魔憑きに強く憧れた。
ただひたすらに焦がれた。
フォーチュン憑きの悪魔憑きは、ただそこに在るだけで目映い。
そして強く賢く気高く、なにより…なにより、何ものにも惑わされない確かな瞳。澄んだ湖水のような静まり返った心。

憧れは鳥の羽ばたきにも似て刹那的で、けれど俺の中の大地に根を張った。
深く…深く。

純白の宝石がほどけはじめたとき、俺は怒りの衝動にかられた。
こんな小さな石ひとつに、俺の運命を担うほどの力があるのかと。
こんな石に、俺の夢を壊されるのかと。
…冗談じゃないと、思った。
こんな石に、俺を傷つけることなんてできない。
どうあっても掴んでみせる。こんな石、握り締めてみせる。

けれど俺は許されなかった。
純白の宝石は俺の手の中でほどけて、さらさらとこぼれ落ちた。
白い砂となった宝石は足元に広がる真っ白な砂地の一部となった。
過去、フォーチュンを願っては許されなかった者たちの絶望の跡。
白い砂は庭園いっぱいに敷き詰められ、静かに眠っている。

握り締めた掌から血がこぼれて、砂を染めた。
じんわりと広がるそれの、美しさ。
その時、残念だったと無理に笑って見せていた俺の頬の筋肉が、本当の意味で緩んだ。
「仕方がないんだな…。俺の血は、こんな風にして大切な者を穢してしまう…。」
不甲斐ない自分への憎しみの衝動は去った。おかしなくらい晴れ晴れとした気持ちになって、俺は眉尻を下げた。
白の先見者が俺に微笑み返してくる。そうして俺の血塗れた手を取って、そっと息を吹きかけた。

日の光を受けたかのような温かな感触。傷は塞がった。
「フォーチュンは貴方を選んだ。」
「―…なに、を」
「いえ、この子はまだフォーチュンとして目覚めていない。けれど、貴方が共にあればきっと。きっとこの子は美しいフォーチュンになる。」
開いた掌。
雪の結晶を描いたような紋章がひとつ。俺の手に、確かに浮かび上がっていた。
「フォーチュン…これが、俺の…」
「この子はまだ悪魔として目覚めていない。貴方の心の持ちように寄って、如何様にも変化する。この子がフォーチュンとして目覚められるかは、貴方次第」

先見者はそう告げて、立ち竦む俺の元から去った。
残された俺は掌を陽光に翳して、そしてそっと紋章を撫でた。
「…俺次第…か」

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―…登場人物その1

あいつにはどれだけ言っても分からない。
あんまり露骨に言ったら可哀相だと思って、人が遠まわしに言ってやってるのに、どうしても気付かない。鈍いにもほどがある。
この鈍さが時に面白く感じることもある。こいつを欺き心の中でけなすのはつまらないことじゃない。
けど、こいつを貶めるのならそんな手ぬるいことをせずにいっそばっさり切り捨てたい。

あいつの能天気な笑顔が気に食わない。
あいつの気の抜けた笑い方が気に食わない。
漠然とでも確かに拓けた未来を信じているその瞳も。
望むものに対して消極的なくせにあっさりと手に入れるその手も。
断崖と見せかけて、整地された綺麗な街の中を行くその足も。

汚れていないあいつが気に食わない。
それより気に食わないのは、俺の言うことをまるで理解できないあいつの幸せさ。いっそ露骨に言い放ってやりたいと、俺は思う。
突き放してやりたい。
追い縋ってくるのが見たいわけじゃない。とにかくうんざりだ。俺があいつを想っていると、あいつは無条件に信じている。気に食わない。苛々するんだ。

―…登場人物その2

俺は気付かないふりをする。
俺はあいつが俺を邪険に思っていることを知っている。
あいつの悪人面が作り物じゃないことを知っている。あいつは本当に冷たく鋭く、そして容赦ない。
あいつはそれを表に出すことはしない。いつだって甘い真綿に包んで他人の前に差し出す。俺はそれをそ知らぬ顔して受け取って、ただ喜ぶ。
あいつは知らない。
俺があいつの本質を見抜いていることも、あえて気付かないふりをしているのにも。

あいつの意外に鈍いところが気に入っている。
あいつのふとした時に見せる優しさを気に入っている。
何だかんだと悪になりきれない暖かな眼差しも。
望むものが既に懐にあるのにそれに気付かない愚かさも。
荒野や深い森の中、傷つきながらも確かに踏み出す足も。

汚れきれないあいつを気に入っている。
なにより気に入っているのは、あいつが俺を突き放しきれない大馬鹿者ってこと。俺の一挙一動に苛々して…とはいってもあいつは笑顔を絶やさないが…蓄積されていく嫌悪を欠片も発散できずにのたうつあいつが面白い。
あいつはいつも逃げるけど、俺は追いかける。素っ気無いけど諦めない。突き放されてもついていく。
俺があいつの露骨な冷淡さに壊れてしまうと、あいつは無条件に信じている。面白い。わくわくするんだ。

―…二人の登場人物

小さな酒場でひとつの机を挟んで酒を酌み交わしている。
二人は笑顔。
けれどその裏で互いが互いを憐れんでいる。
その二人、けれど常に共に在り、手を組んで賞金稼ぎを営んでいる。

そんなお話。

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昔々のことでございます。

深い深い森の、そのまた奥。
そこに、名もない小さな集落がございました。
主人公となるその青年は身寄りがなく、物心ついたときには既に独りきりでございました。
風通しのよい粗末な家と、ツギだらけの襤褸い服。
その日食べるものにも事欠く大変苦しい生活ぶりで、青年は誰の目から見ても明らかに痩せ衰えておりました。

けれど青年は信じておりました。
信じてひたすらに耐え忍ぶことが出来れば、世界は如何様にも拓けるのだと。

白羽の矢が立ちました。
青年が、村のために大蛇に捧げられることとなったのでございます。
青年は嘆くことをしませんでした。
こんな時にこそ微笑んでいよう…こんな時だからこそ強くあらねばと考えたからでございます。

青年は生まれてはじめて白い飯を口にしました。
青年は生まれてはじめて清らかな湯殿で体を磨きました。
青年は生まれてはじめてツギひとつない美しい衣を授かりました。
青年は生まれてはじめて柔らかく暖かな寝台で横になりました。

生贄とされた青年は、最期の日を至福な気持ちで迎えました。
そして、満たされた気持ちで終えたのでございます。

あくる朝、青年は深い深い穴に落ちてゆきました。
たくさんの人の手に突かれて、落ちてゆきました。
ひたすらに暗くどこまでも冷たい闇の中を、青年はまぁるい空を見仰ぎながら落ちてゆきます。穴の入り口はぽっかりと明るく、青く輝いておりました。

青年は瞳を閉じます。
最期に見た景色がとても美しかったのが、嬉しかったのです。
青年は最期まで嘆くことをしませんでした。
それが何ものにも勝る「強さ」の証だと識っていたからでございます。

青年は信じておりました。
信じてひたすらに耐え忍ぶことが出来れば、世界は如何様にも拓けるのだと。
逃げず戦う強さより、青年は耐え忍ぶ強さを信じておりました。

せめて最期だけは安らかに。
青年は人知れず微笑んで、闇の彼方へと落ちてゆきました。

おしまい。

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コウモリのお話。
遥か昔。それはもう、人の忘れ去った時代。
鳥と獣とが戦をした。
互いが互いを憎しみあい、鳥は空を舞うことのできない獣を蔑み、獣は地を駆けることのできない鳥を嘲笑った。

輝ける太陽と涼やかな風…その気高さを知らない獣。
獣は空の息吹なくしては生きられない。けれど獣はそれを知らない。
伸びやかな木々たちと巡る川のせせらぎ…その壮大さを知らない鳥。
鳥は地の鼓動なくしては生きられない。けれど獣はそれを知らない。

最初、戦は鳥が圧勝していた。

コウモリは考えた。同族を守るため、少しでも多くの命を救うため、コウモリは鳥の王に言った。
「わたしたちは貴方の味方です。見てください、この羽を。わたしたちは貴方と同じように空を駆けることができるのです。」

しかし、しばらくすると勝利の女神は獣に微笑みかける。

コウモリはまた考えた。同族を苦しめないため、少しでも多くの命を死なせないため、コウモリは獣の王に言った。
「わたしたちは貴方の味方です。見てください、この顔を。わたしたちの顔はネズミと同じです。そしてわたしたちはサルと同じように木にぶらさがることができるのです。」

鳥の王はコウモリの裏切りに大層腹を立て、コウモリを空から追い立てた。二度と真昼の太陽の恩恵にあずかれないよう、コウモリを暗い洞窟へと追いやった。
それを知った獣の王もまた、コウモリの尻の軽さに大層腹をたて、コウモリを地から追い立てた。二度と大地の創造した形ある食物を口にできないよう、呪いをかけた。そして、地に足がつけないようにした。

以降、コウモリは夕闇の中を飛ぶしかできなくなった。
樹液や他の生き物の血を嘗めてしか生きることができなくなった。
暗い洞窟の中、彼らは地に足をつくことなくぶら下がって過ごす。

けれどコウモリはそれを一族の誇りとした。
どの鳥よりも、どの獣よりも、彼らコウモリはその多くが生き延びたから。

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